昼休み。



 休憩室の隅で、結衣が書類を整理していると、
 背後からそっと声がした。




「……静かだね。ここ、使ってる?」




 振り返ると、陽向先生がコーヒーを片手に立っていた。
 彼の声は少し低く、仕事中とは違う穏やかさを含んでいた。




「いえ、大丈夫です。どうぞ。」





 陽向先生は、結衣の向かい側に腰を下ろすと、
 書類の束を見て微笑んだ。




「真面目だね。休憩中まで仕事してるなんて。」



「陽向先生が書類を溜めるからですよ。」



「……う。耳が痛いなぁ。」



 陽向先生は苦笑しながら、ブラックコーヒーをひと口飲んだ。




 静かな時間が流れる。





 窓の外では木々が風に揺れて、光がやわらかく差し込んでいた。



「ねえ、橘さん。」


「はい?」


「昨日さ、夕飯作りすぎちゃって。……よかったら、今夜うちで食べない?」



 結衣の手がぴたりと止まった。



「い、いいんですか?」

「うん。どうせ二人分作ったし。」

「……最初から、そうするつもりだったんじゃないですか?」



 陽向先生は、肩をすくめて笑った。




「ははっ、バレてたか。」




 結衣は照れ隠しのように笑いながら、




「じゃあ……お邪魔します。」と小さく返した。