病院に着くと、ちょうどナースステーションの奥から陽向先生が現れた。



 長い白衣をひらひらと揺らしながら、カルテを片手に歩いてくる姿に、胸がどきりと跳ねる。



 けれど、二人の関係はまだ秘密。
 院内では、いつも通りの距離を保つようにしていた。




「おはようございます、陽向先生。」



 いつも通りの声で挨拶をする。




「おはよう、橘さん。」




 そう言いながら、ほんの一瞬だけ目が合う。




 その一瞬の“秘密の合図”が、二人だけの朝の習慣になっていた。