数日後。


 日曜日の昼下がり。



 ガラス張りのカフェに、柔らかな陽の光が差し込んでいた。
 コーヒーの香りが漂う中、結衣はカップの中のココアを見つめながら、心を落ち着けようとしていた。



「(なんで私、来ちゃったんだろ……)」



 そんなことを思いながら、ちらっと正面を見る。

 そこには、白シャツにグレーのジャケット姿の陽向先生。

 病院で見る白衣とは違う、柔らかく大人っぽい雰囲気をまとっている。




「……っていうか、いつまで笑ってるんですか?陽向先生。」



 結衣は照れ隠しに眉をひそめた。




 陽向先生は、テーブル越しに微笑みながら肩をすくめる。



「ごめんごめん。だって、いつもクールな橘さんがココア飲んでるの、なんか新鮮で。」



「別に、いいでしょ。コーヒー苦くて飲めないんです。」


「ははっ、ブラック飲めないって、可愛いなって思って。」




 その“さらっと可愛い”の一言に、結衣の手が止まった。



「……ほんと、そういうの簡単に言いますよね。」



「え?事実だから。」


「もう、ほんとに……。」



 ため息をつきながらも、頬の熱は下がらない。