蝶々結び【完結】



翌朝。





 目を覚ました瞬間、まぶたがなんだか重かった。



 鏡の前に立って、恐る恐る顔をのぞき込む。

「……うわ、やっぱり腫れてる。」

 泣きすぎた証拠。目の下にうっすら残る赤みが痛々しい。




 結衣はコンシーラーを手に取り、念入りにポンポンと叩き込んだ。



 ファンデーションを重ね、チークで血色を整えて――


 深呼吸して鏡の中の自分に向かって、にっこり。




「よし、完璧!」




 口に出して気合を入れる。
 けれど、心の奥のもやもやは、まだ晴れない。




 ――昨日のことが、何度も頭の中をよぎる。




 診察室での、あの抱擁。
 陽向先生の腕の温かさ。
 耳元で囁かれた低い声。




「……っ」

 思い出しただけで、頬が一気に熱くなる。




(陽向先生って……つまり、私のこと、ずっと好きだったってこと?)




 その答えにたどり着くたびに、心臓がドクンと跳ねた。

 だけど同時に、胸の奥がざわつく。




(でも……本気なの? それとも、あのときの勢い……?)



 鏡の中の自分と目が合った。
 視線を逸らしながら、苦笑いする。




「どうしよう……今日、どんな顔して会えばいいの……。」





 そう呟いて、バッグを掴むと家を飛び出した。