蝶々結び【完結】





「な、何を言ってっ……!」
 思わず声が裏返る。
 心臓が跳ねて、喉が苦しくなる。




 けれど陽向先生は、笑ったまま結衣を見つめていた。




「かけられないんだ?」




 その声は優しいのに、まるで逃げ道を塞ぐようだった。





「やっぱり……それも橘さんの嘘なんだね。」




 結衣は息を呑んだ。




「僕には分かるよ。橘さんの嘘も、何か抱えてることも。
 恥ずかしくて僕から逃げてることも。
 周りには冷静で繕って見せてるけど、僕には――分かる。」





 静かな声。
 でもその言葉の一つ一つが胸に突き刺さる。





 結衣はもう、陽向先生の目を見られなかった。
 優しく握られた左腕が熱い。
 鼓動が、指先まで響いている。





「……なんで……私なんですか?」




 ようやく、かすれた声が漏れる。



「え?」

「また、そうやってからかって……楽しいですか?」




 涙がこみ上げて、喉が熱くなる。




「周りと賭け事でもしてるんですか?
 人のこと弄んで……そんなに面白いですか?」





 陽向先生の目が、見開かれた。





「は?」






 低く短い声が、診察室に響く。
 その表情には明らかな怒りが宿っていた。





 でも、結衣は止まらなかった。



 怒らせて、離れてくれるなら――その方が楽だから。





「陽向先生には、もっと若くて綺麗な人だって寄ってくるでしょ?
 よりどりみどりじゃないですか……!」






 声が震える。視界が滲む。