回想――三年前




 新人看護師として働き始めたばかりの頃。

 病棟はいつも慌ただしくて、失敗ばかりしていた。


 採血の手が震えて、先輩に小声で叱られて、患者さんに「痛いよ」と言われて、落ち込んだ。



 そんな結衣に、ふと声をかけてくれたのが、あの人だった。



 「焦らなくていいよ。誰だって最初は失敗する。」



 白衣の袖を少し捲って、優しく笑う。

 柔らかい目をした人だった。

 早瀬 隼人(ハヤセ ハヤト)先生。内科医として研修を終えたばかりで、同じく新人だった。



 「ほら、こうやって深呼吸してみて。」


 彼の手がそっと、結衣の背中を押した。

 その温もりを、結衣は一生忘れないと思っていた。



 笑うタイミングも、歩く速度も、似ている気がして――


 まるで神様が結んだ運命の糸みたいに感じていた。