蝶々結び【完結】


翌日の勤務終わりのナースステーション。



誰もいなくなった静かな空間で、結衣が書類をまとめていると、
ふと後ろから紙コップの音がした。



「はい、これ。今日も一日お疲れ様。」


差し出されたのは、温かいココア。



「陽向先生……また甘いやつ。」


「うん。今日の橘さん、よく頑張ってたから。特別。」


「……甘やかさないでください。」


「僕、結構甘やかすの好きなんだよね。特に、橘さん限定で。」


「……っ」


「でも、あんまり言うとまた怒るでしょ?」


「……怒りません。ただ、戸惑ってるだけです。」



「戸惑うってことは、ちょっとは僕のこと意識してくれてるってことかな?」



陽向先生の笑みが、柔らかくてずるい。
結衣は何も言えず、ただココアを見つめていた。



「……陽向先生って、なんかずるいですよね。」

「そう言われるの、橘さんだけだよ。」



陽向先生はそう言って、少しだけ本気の目で結衣を見た。
その視線に胸が詰まる。


(どうして…?)



静寂の中で、紙コップから立ちのぼる湯気が二人の間を揺らした。



触れそうで、触れない距離。
でも確かに、もう恋の熱があった。