蝶々結び【完結】



昼下がりのナースステーション。


結衣は電子カルテの入力をしていた。

カタカタと打ち込む指の音に混ざって、陽向先生の爽やかな声が近づいてくる。



「橘さん、午前中の採血、ありがとね。助かったよ。」


「いえ、いつも通りの業務ですから。」

「そういう真面目なとこ、やっぱり橘さんらしいね。」


そう言いながら、陽向先生は結衣の後ろから覗き込む。


その距離――近い。
背中越しに彼の気配を感じ、結衣の手がぴたりと止まった。



「陽向先生、近いです。」

「ん?モニター見てただけだけど?」

「……そうですか。」



(絶対わざとですよねっ?)


そう思いながらも、距離をとることができない。
陽向先生の声が耳元をくすぐる。


「橘さんってさ、タイピングの音も几帳面だよね。ちゃんとリズムある。」


「そんなの、気にして見てるんですか?」


「うん。いつも聞いてると、落ち着く。」





――やっぱり、絶対わざと。