蝶々結び【完結】



昼休み。


廊下を歩いていた結衣の手に、何か柔らかいものが当たった。



「わっ……!」


見ると、紙コップ。中にはほんのり湯気の立つミルクティー。



「それ、さっき買ったやつ。冷めないうちにどうぞ。」


後ろから、陽向先生の低い声。



「……どうして、私に?」


「昨日、夜勤明けで顔色悪かったから。糖分とカフェイン補給。」


「……陽向先生、意外と気が利く人なんですね。」


「意外と、って何。」


「だって、患者さんや他の看護師さんには“爽やかドクター”なのに、私にはちょっと意地悪ですから。」



陽向先生は少し目を細めた。


「だって、橘さんには“爽やか”じゃ通じなさそうだから。」

「……どういう意味ですか?」

「そのまんま。君には、少し意地悪なくらいがちょうどいい気がする。」


「……っ!」



結衣はミルクティーを両手で持ち、視線を逸らした。



カップ越しに感じる温もりが、さっきまでの冷たい手のひらをじんわりと熱くしていく。






(私、また翻弄されてる……?)