蝶々結び【完結】



 時計の針が、午前2時を指していた。


 ナースステーションにいた結衣の耳に、突然、ナースコールの電子音が響く。



 「302号室、急患です!」


 柚希の声が少し震えていた。



 結衣は即座に立ち上がり、走り出した。

 病室では、患者が腹部を押さえて苦しんでいる。



 「痛み、どのくらいですか?息はできますか?」



 慌てずに声をかけながら、バイタルを測る。




 心拍が上がっている。汗がにじんでいた。


 「柚希!陽向先生に連絡よ!」


 柚希がすぐに電話を取った。

 しかし、数回コールしても出ない。


「あれっ…おかしいなあ…。」
隣で柚希が、困惑する。




 ――出ない?



 焦りが胸を走る。


 結衣は自分で受話器を取り、何度かコールをかける。


「陽向先生、302号室、急変です!」と繰り返し呼びかけた。




 ようやく、眠たげな声が返ってくる。



 「……すぐ行きます。」



 数分後、陽向先生が駆け込んできた。
髪が少し乱れている。



 「ごめん、すぐに対応する。」



 そこからは早かった。



 適切な処置を指示し、薬を準備し、痛みを緩和。

 結衣も冷静にサポートし、息の合った連携で危機を乗り切った。



 患者の表情が落ち着いた頃には、時計の針は午前3時を過ぎていた。


 小さなため息が、ナースステーションに戻る結衣の唇から漏れた。