春の夜は、少し冷える。 病棟の蛍光灯の明かりが、白く、どこか遠い。 ナースステーションでは時計の針の音だけが静かに響いていた。 橘結衣は、看護記録を入力しながら、何気なく窓の外を見た。 街灯に照らされた桜が、風に揺れている。 昼間の華やかさとは違って、夜の桜は少し寂しげだった。 ――今夜は、陽向先生と初めて夜勤が一緒。 それを聞いた時、結衣は少しだけ胸の奥がざわついた。 「……まあ、関係ないけど。」 そう小さくつぶやき、ペンを握り直す。