意味もなくおにぎりのビニールを指でいじっていると、「運命の出会いってやつじゃない⁉せっかくだしDMでもしなよ!」と先輩がこちらに勢いよく身を乗り出してきた。

そのとき、違う課の男の人が給湯室に入ってきた。確か、私と同期で営業の大澤(おおさわ)さんだったとおもう。

「蓮見さん、それってTikTokで流行ってる『Reo(レオ) -大学2年生歌い手-』ですよね⁉」

「そうそう。ここの最寄り駅のロータリーで路上ライブしてたんだって。」

先輩がそう説明すると、「マジですか⁉」と大澤さんが食いついた。

先輩と大澤さんが『Reo』について喋っているのを横目に、中味のほぼないインスタントスープを意味もなく何度も口に運ぶ。

TikTokは普段見ないので、流行りについていくのは苦手だ。

「あ、お騒がせしましたー!午後も頑張りましょー」

実に気が抜けた口調の大澤さんが、握りしめたこぶしを高くつきあげる。

「はい…」

なんとか口角を引き上げ、私はインスタントスープのカップとおにぎりのビニールを何のためらいもなくゴミ箱に捨てて、そのまま給湯室から出た。