「はぁ…」
私が吐き出した息は白く立ち上り、ふわりと消えて行った。
職場の最寄り駅のロータリーには募金やら勧誘活動の声であふれている。だけど、私はそれを無視して義務感のみで職場に向かう。
アスファルトの黒い斑模様を目で追っていると、募金や勧誘活動の声を割るように物悲しげなギターの音が私の耳に入ってきた。
「空にある何かを見つめてたら――」
声の主の方に振り向くと、そこには水色のチェック柄のレジャーシートに腰かけてギターを弾いている大学生くらいの男性がいた。
「それは、星だって君が、教えてくれた――」
足を止めると冬の風が私の髪を揺らし、そしてレジャーシートをふわりと舞い上げた。
左手で髪を押さえてそのまま歩き出そうとすると、私の歩みを止めるかのようにA4の白い紙が足元にすべってきた。
それを拾い上げてきょろきょろしていると、「それ、僕のです」とあの大学生くらいの男性が手を差し出してきた。
それを手渡すと、裏返しの紙からびっしりと書かれた黒い文字がうっすら透けて見えた。
なんだろう、と好奇心で紙を裏返そうとすると、大学生くらいの男性が私が持っている紙の端をがっとつかんだ。
「…すいません。」
低く抑えたような大学生の男性の声が耳に入ってはっとした。
急いで紙を返すと、その大学生の男性が大切そうに紙を胸に抱きしめた。
「お騒がせしました。」
そう言ってうつむきながらその場を去ろうとすると、レジャーシートの端に『Please feel free to take』と黒い文字で書かれていた。その横には名刺のようなものが数枚重なっている。
お守り代わりと言っては何だけれどその名刺を1枚もらって帰り、私は大学生の男性の前から静かに去った。



