ー 樹 side ー


「…っ、はぁ、はぁ」

病院内の廊下を他の人にぶつからないように走って、千歳のドナーを探すも何処にもいなかった。手術予定だった、ドナーが手術待合室から失踪したー。この事実は千歳にとって深い傷となって残るだろう。ドナーの家族は居たから聞いてみたら…

「あの子は昔から人の役に立ちたがってる子でした。でも…それが実現したことはありません。恐らく、直前で怖くなり逃げたのでしょう」と言っていた。本当に申し訳なさそうな声で千歳達に謝っていた。

「……っ!」

やっと、千歳と生きれるって思ってた僕が馬鹿だった。千歳の担当医の菅原先生によると移植は自分の命と引き換えに患者の命を救う立派な行為だけど、直前になって怖くなり逃げる人もいる と聞いていた、まさかそれが…こんなに辛いなんて。だから、僕はダメ元でドナー検査をする。

これが適合し通過すれば…僕は君の心臓となり助けられる。

「待ってて、千歳…」

何があっても僕はもう逃げない、ボクが…君を助けるから。手術が始まる10分前に僕は千歳に手紙を書く。…千歳が手術を無事に終わらせて目を開けた時はもう僕はいない。そう気づいた千歳はきっと泣いたり怒ったりするかもしれないから手紙を一通書く…どうか君が幸せでありますように。


そうして僕は色々準備を済ませ手術服に着替え心臓移植をする。怖くない、不安がない、そう言ったら嘘になる。けど「僕がドナーになり千歳を助ける」その思いは嘘なんかじゃない。