手術がいよいよ1週間前に近付いた今日…

「千歳、体調や気持ちは大丈夫か?」

あの日からお父さんは私の事を毎日のように病室に来てくれてたまに樹と楽しそうに話したりたまにお父さんがいじわるしたり、と忙しい毎日を過ごしていた。

「うん、大丈夫だよ」
「千歳、手術の日は僕も付き添うからね終わるまで待ってるから」
「うん、ありがとう!あのね、いつ…」

「病気が治ったら付き合う」あの約束は本気なの?そう聞きたかったけど、お父さんがいる手前私は聞けなかった。

「ううん、やっぱりなんでもないっ」
ー開いた口をそのまま閉じた。

「そう?」
「うんっ気にしないで」

それからまた時間が経ち

「千歳ちゃん、手術今日だね、体調はどう?」
「菅原先生…私は大丈夫です。それよりドナーの方は?」
「うん、ドナーの方もご家族の方も大丈夫だって」

「そっか、良かったです…」
手術に悪い影響が出ないようにちゃんと事前に検査を受けそれから手術服に着替え私は手術を待っていた。

「千歳…僕ずっと手術室の前で待ってるからね」
ーーキミがいるだけで私はいつも勇気を貰えた。

「うんっ」
暖かったー。君の言葉が、君の体温がー。

「… いつもは口にだったけど…今日はここね」
「え?…」
ちゅ、音を立てと優しくそっと私の手にキスをした。

「頑張ってきてね、千歳」
「う…」

「千歳ちゃん!ごめん、今日の手術はーー」
「…え?」



「お父さん…!」
「…千歳」
「先生から、聞いたの…」

「ドナーが…っ」
「あ、あぁ…失踪したって」
「っ、…」

やっと助かると思っていた私の心臓。期待していた私の気持ち、周りからの「治る」という期待の視線や気持ち、全部が壊されたみたいで、全部が馬鹿にされたみたいで、ーそれはそっと打ち砕けた…

私は涙が止まらなかった。やっと樹の隣で歩いてデートや色々できると思ってた。

「千歳…諦めるな」
「おとうさ、んっ」

ーー私には時間が無い。そんな事はもう分かっている。

「う、ふぅ…ぐす…っ、」
「…千歳」
「…千歳!大丈夫?ドナーが失踪した、って…」

「い、つき…っ!」
…もう私、生きられないのかな?諦めないと、いけないのかな…?声に出したかった悲しみや形が、全部消えていく…

「ねぇ…っ、…うっ、ど、して私なの…っ?」
それは声にならない、泣きすぎて自分でも何を言ってるか分からないほど顔も声も酷かった

「ち、とせ…」
「わかんないよ… なん、で病気にかかったの、私なの?」
「…っ!」

ねぇ、こんな苦しい思いするなら私なんて生まれてこなきゃ…酷いよ… お父さん、お母さん、樹、菅原先生…助けて。

そこで私は意識を失い次に目が覚めたのは自分の病室のベッドの上だった。知っている天井の柄が目に映る。

「千歳、目が覚めた?」
「…樹、?」
「もう、大丈夫だよ」
「え…?」

樹の言っている言葉の意味が分からなかった。樹の安心そうにしている顔の意味が分からなかった、樹の本音や笑顔の意味が分からなかった、どうしてそんな風に、笑えるの?

「…ドナーが、見つかったってさ」
「う、そ?私に…?」
ーー神様はやっと私に微笑んでくれた、この時の私はそう思っていた。

「うん」
「…!やった、やっと私普通になれるんだ」
「千歳…!」

ガタンと大きな音を立て病室のドアを開け入ってくる私の両親

「お母さん…」
「もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」
「急に倒れるから心配したぞ」
「お父さんも…?私は大丈夫」

「千歳ちゃん…ストレスとか悩み抱えてない?もし今回のドナー失踪がストレスとかに繋がっているなら捨てよう?新しいドナーも見つかったし万全な状態で挑もう」

「ストレスや、悩み…もちろんドナーのこともあるけど1番はこんな私のせいで入院費とかお金かかってその上迷惑ばっかかけてるから…ごめんね、お母さんお父さん。生まれてき…」

「ばか、そんな事言わないの!千歳はお母さんたちにとって最愛の宝物よ?」

「そうだぞ千歳、生まれてきてごめんとか生まれなきゃ良かったとかそんな事言うんじゃない」

「うん、ありがとう、ごめんなさい…」
「それとね千歳、お金のことは気にしなくていいから」

優しい両親の言葉が心に刺さって、それが涙をだす合図みたいに、私の目からは大粒の涙が溢れ出た。

「…うん、うんっありがとう…!」
「……」

一度はどうなる事かと思ったけど本当にドナーが見つかってよかった。手術は検査も無事に終わって通過済みということで明後日に決まった。私は本当に手術を楽しみにしていた。失踪したドナーとは事前に会ってお礼もできたけど今回のドナーは匿名でお願いしているらしく事前には会えなかった。でも手術が終わったらご家族の所へ言ってお礼を言おう… 。

「…早く、手術したいな」
「……っ」

ーーねぇ、樹…私の言葉がどれだけ樹の心に重く刺さっているかあの頃の私は分からなかったよ。もっと早く、樹の気持ちに気付いてあげていたら…私は今でも後悔しなかったのかな?