ー 千歳side ー
「千歳、具合はどう?」
「もう、それ毎日聞いてるじゃん…私は大丈夫、ほら仕事忙しいんでしょ?」
退院してからの私はお母さんに毎日具合はどうかとか聞かれて正直ゲンナリしているが私のことを思ってだろう。そんなお母さんは夜勤明けで疲れているはずなのにまた仕事に行くらしく心配そうな目で私のことを見つめていた。
「そう?ありがとう、じゃあ行ってくるね」
「気をつけてね、行ってらっしゃい」
私が退院してからもう2週間、樹と会えなくなってまだ2週間… 今何しているんだろう、と連絡をしたくなるがあの日かかってきた電話のみでメールも電話も寄越さない。恥ずかしいのか、私のことをもう好きじゃなくなったのかな、考えていたら不安が沢山出てくるので考えるのをやめにして家の近くのコンビニまで行く。アイス買おっかな… ここ最近アイス食べてなかったし、今日は天気もいいから外の空気をふいに吸いたくなってみた。
ーーーチリンチリーン。コンビニの入店音が鳴り響く
「いらっしゃいま…え?」
ー家の近くにあるなんでもないふとした小さいコンビニにそこに…樹は居たー。
「え…いつ、き…?」
会いたかった、今まで何してたの、話したいことが沢山あるの、ぐっと出てくる感情をこらえ『お客さん』として振る舞う
「あと、1時間…まってて」
「う、うん」
そうして最初の目的を忘れちゃいけないと思いアイスを選ぶ、何にしようかな…と選んでいるとカゴの所に小さい看板があって 『何買おうか迷ってる?そんな時はこれがオススメ!とろーりふわふわのチョコもちアイス!』と書かれていてどうやら新発売らしく、それを手に取り買う。
「…ありがとうございます、130円です」
「……」
「ありがとうございました。」
「近くのカフェで待ってる、ね」
「…うん」
そして時間が経ち1時間後ーー。
「ごめん、お待たせ」
「樹…!」
「私の方こそごめんね、忙しいのに」
「ううんっ大丈夫だよ、会いたかったから」
「会いたかった」愛おしく私の目を見つめてそう言う樹にドキッと鼓動が音になる。
「…なんで、連絡くれなかったの?」
ー私が1番聞きたかった本音
「…バイト始めた理由が少しでも多くお金を貯めて病気治せたらなって思って。もちろん、千歳以外にも沢山病気を抱えてる人はいる…だからその人達を助けるためにも寄付とかのお金も。」
『 最近の樹は 治したい病気があるから僕が医者になるんだ って勉強張り切っているんだよ 』
『 君が思ってる以上に樹は、君のことを気にかけているんだよ 』 いつの日か私にそう言っていた朔摩先生の声が頭に響くー。
「…樹はお医者さんになりたいんだもんね、樹の手を求めている人がたくさんいるよ」
ーー私も、樹の手を求めている。
「千歳」
「どうしたの?」
「僕ね…心臓移植しようかと思ってるんだ」
「……え?」
ーー永遠に変わることないと思っていた日々が色を変えて変わっていく。樹の口から「心臓移植」という言葉が出てきて、何より怖いのは「私のせい」で未来の医者を無くし樹をも無くすということで…。
「樹、本当なの…?」
「僕が…千歳を助けたいんだ」
樹の目はフッと細くなり温かみを無くしていて覚悟を決めていた目だった
「わかんないよ、そんなのっ」
「千歳…?」
不安げに樹の手が握りしめられたのは私のせいじゃない、ゆらゆら揺れる瞳だって、私がそうさせたんじゃないよ。
「樹は医者になりたいんでしょ?」
「うん、だから…」
「その夢、壊さないで」
「でも僕は!千歳を助けたい」
「樹…!」
お互い助けたくて、お互い分かりたくて、お互い無理をしていて…お互いの夢を思いすぎていたのかもしれない。
「……千歳、やっぱり僕頑張って医者になるね」
「…いつ、き?」
突然に言っていた樹の言葉の意味が私は分からなかった。
「だから応援しててね」
ー少し寂しそうで、切なそうな私の大好きな人。
ニカっと眩しく笑う樹の目には愛が溢れていたような気がする。

