──それから入院生活が始まって1週間後
「…じゃあお母さんもう帰るね、また明日も来るから」
「お母さん、もういいよ…?」
「…え?」
「仕事休んでまで来てくれるのは嬉しいけどドナー見つかるまでの入院だからどこか怪我して
入院したわけじゃないの。…だからそんな頻繁に来なくて大丈夫」
「千歳…」
私の目の奥に悲しそうなホッとしたようなお母さんの顔が映る。
お母さんは私の事心配しすぎなんだよ。優しいお母さんのことだから分かるよ…。
私の病気を調べて、寝ていなかったんでしょう?
不安に駆られて私のことを考えていたんでしょう?
だから、最近寝れてないのもわかってる。目の下にクマができてるし、あんなに綺麗だった肌が少しシワが増えているんだもの…
「……私は大丈夫」
とびきりの笑顔とピースを見せた私は“ね?”とお母さんにかけた
「え、えぇ…そうね、千歳だもの、大丈夫よねきっと。ありがとう。じゃあ、また今度ね」
寂しそうに私に手を振るお母さん…これでよかったんだ。でも本当に私は大丈夫だから、私のことよりも自分のことを心配して欲しいのに…。
───そして頭上にあるナースコールをポチッと押す。そして少し時間があいて看護師さんが私の病室をノックし入ってくる。
「…気分転換に屋上行きます。」
無断で行ったらダメだとお母さんにこの間言われたのでナースコールを押し伝える、すると看護師さんは「分かりました、でも30分以内ね」と私に言う。
───久しぶりの外と久しぶりの青い空。鼻の奥にツンっとどこからか香る薬品の匂いに、個室から聞こえる子供の泣き声。
ドアの隙間から少し見えていたから覗いてみると、あんなに小さな子供が治療を頑張って泣いているんだ。私も頑張らないとな……
「……」
「……ドナー、見つかるかな」
それでも、私の心は不安でいっぱいだった。
───私の個室からたまに見えるこの飛行機雲は私の心を凍てつかせる。雨が降ったり、曇りだったり、快晴だったり、空には色んな天気があって色んな日がある…
けれど私の心は一方通行で、体調がいい日はそう何度も繰り返さない。だからこそこの青い空を見たとき弱音がこぼれた
青い空に向かって零れた弱音は誰にも聞こえることなく澄んだ空気の中に息として混ざり、消えた。
そして、何分いただろうか?青い空はやがて夕焼け色に染まり夕方を知らせる。
───不意に、空って不思議だなと思った。雲ひとつで時間がわかるようになっている、いやすごいのは人間か?…この空を見ただけで夕方か分かるのだから。
…と、意味の無い考えを脳に張り巡らせる。
「あ、30分以内って言われてたんだった…」
今更ながらに思い出す約束をふっと消し病室に戻ろうとする私の手を引き寄せたある人──
「…っ、まって」
「え?」
「……この間ここに入院しているって見たから」
「う、うん?」
たしかにあの頃の私の腕には入院患者がつける番号札が私の腕にはあったけど今も入院している確証なんてないのにこの人はわざわざ私の元へ…?
「初めて見た時から思ってたんだ、君と仲良くしたいってね」
「…!」
「僕と同じ小説が好きな人は学校にも家族にもいなくて、…初めて見つけた同じ好みの人」
「あ、あの小説面白いよね。私大好きでっ」
「…!」
話を続けてくれるとは思わなかったのだろうか、私がそう返すと俯いていた彼の顔は上を向き私と目が合う。
───あぁ、私の記憶にある彼の顔だ。
眩しくて、凛としていて、強い太陽のような眩しい顔。
──夕焼け色だった空はいつしか星が出ていて、時間の流れはあっという間だと感じた
「ごめん、そろそろ戻らなくちゃ。」
「あ、そうだね、ごめんねこんな時間まで…」
「ううん、いいのっ、その…楽しかったから。」
「… うん、僕も」
彼といたら時間を忘れて、青空だった空はいつしか星が出ていて…同じ趣味の人だからだろうか?話してて心が弾んで、心なしかもっと一緒に居たいと思ってしまった。
だがそういう訳にもいかず…「また会おう」と約束し彼は私の病室まで送ってくれた。
「…!やっといた、看護師さんから30分以内までと言われただろう?」
「あご、ごめんなさ── 」
“ごめんなさい”そう言おうとした時、彼が私の言葉を遮り菅原先生に向かって頭を下げる。
「違うんです、僕が悪いんです。」
「え?」
「…って君は朔摩先生の?」
「はい、そうです」
「そうだったのか。まぁ…今回は発作も出てないし大丈夫だが発作が出たら危ないから約束は守るようにね?」
「は、はい…ありがとうございますっ」
「はは、若いっていいね」
「今度屋上行く時は1時間以内で、ね?」
「…!ありがとうございます!」
「よかったな」
──また太陽のように眩しい笑顔を見せてくれる彼。
「さ、君はもう遅いから朔摩先生に挨拶してから帰りなさい」
「はい、失礼します。…じゃあね“また”明日」
───ドキッ
不覚にも鼓動が音を立てた。“また明日”当たり前に明日も会ってくれるんだ…
その言葉に私は喜びを隠せないでいた。返事を待っているのだろうか?なかなか帰ろうとしない彼に…
「…うんっまた明日」
───私が出来る精一杯の笑顔をキミに見せる。
“じゃあね”とまた手を振り、そう言う彼と菅原先生は私の病室から姿を消した。
そういえば、お互い名前言ってなかったな、明日は聞けるかな?と今更な疑問を自分にぶつける。でも“また明日”があるからいっか。



