───樹side
「 樹くん、本当にいいんだね?」
「…はい」
繰り返す菅原先生の“ドナー同意”の言葉。
「……樹くんが決めたなら、それでいいよ」
あの日、奇跡的にドナー検査が適合しドナーを出来ることになったがもちろん心臓を他の人に提供 したら自分は生きれなくなる。それは百も承知の上で…僕はドナーを受けた。
これが最後だと分かっているのに何故か怖くはなかった。それは心の中にいつまでも千歳が居てくれるから。
「……」
そうして僕は千歳のドナーを受けた。少し前に千歳の荷物を整理するために病室へ入ったら引き出しにエメラルド色の箱と小さな封筒が入っていて、悪いと思っていてもそれを手にする
「…え」
『 樹へ
いつも私を励ましてくれてありがとう。
いつも私の隣に居てくれてありがとう。
いつも私に優しさをくれてありがとう。
樹のその優しさや温もりに私は何度助けられたのか両手に収まらないほど、感謝してます。樹は私のために人生を捨ててもいいって言ってるけど私のために人生捨てないでね?
医者になりたいんでしょ?人を、助けたいんでしょ?樹の手を求めている人が居るかもしれないからその夢壊さないでね。
私だって、樹の暖かい手を求めているよ、でもそれは、ドナーになってねの意味じゃなくて私の隣にずっといて欲しいからなの。私が元気になったら、お互いの行きたいところへ、たくさん、どこまでも行こうね。
大好きだよ、樹。 』
千歳の手紙のせいで決心した心が揺らぎそうになる… 僕のお父さんは、数々の患者を助ける優秀な医者で僕が男として生まれたとき“跡継ぎ”は自然と強制的に決まってやりたくもない医者をやるために勉強の毎日だったけど…
あの日キミに出会い恋をしたおかげで“やりたくない”医者が“やりたい”に変わった…。
───僕は、お父さんみたいな完璧な医者になりたかった
──僕の手を求める未来の患者さんの手を握りたかった。
けど1番は“千歳の病気を治すための”医者になりたかった。だから、僕はこの命を千歳のために捧げるよ。
───“命を捧げる”
その言葉は悲しい言葉なんかじゃない。別れの挨拶でもない。
尊くて、真っ直ぐで、綺麗な言葉を持つ…
だって……君を助ける合言葉だから。
そしてエメラルド色の小さな箱を開けるとブレスレットが入っていて、“オソロイだよ”とメモ書きが入っていた。
「千歳…っ」
好きな人の名前を呼ぶ、何度も、何度も…
涙に濡れて声が出せなくなっても心の中では千歳を呼んでいる、お揃いのブレスレットを腕につけると不思議と力が湧いたような気がしたんだ。
「樹、ドナーの件…本当にいいのか?」
「うん本当だよ、さっきも話した通り僕は千歳だけの医者になりたいんだ」
「医者になりたい」
誰のためでも、医者になるという夢はお父さんは反対はしなかった。けど悲しそうな顔をしていた
「お前が決めたことなら私は反対しない…安心して行きなさい」
「…!あぁ、ありがとう」
僕は、みんなの中で生きてるよ。僕は、君の医者になれたよ。僕は君の心臓として生きる…
「樹、よく決心したな…」
お父さんが僕の頭を撫でた。
記憶の中の父さんの手は大きくてゴツゴツしたような手だったのに、小さい気がした。…気のせいかな?
「……樹くん、行こうか」
「はい」
───僕はあのドナーのようには逃げない。キミに出会った奇跡、恋をした奇跡…
「樹くん…っ」
千歳のお父さんやお母さんが僕に涙ぐみながら頭を下げる。
「本当に、ありがとう…っ」
「あぁ…ありがとうな…」
みんなが僕に涙を流しながら感謝を伝えながらお辞儀をする。声に出さず、僕はそっとお辞儀をした。
“今までありがとう”そう皆に言うように笑顔を見せた──



