空の植木鉢

「いい加減にしてよ。もう何回目?信じらんない。」

「……ごめん。」

半年ほど前、私たちは一株の植物を買った。
提案したのは、彼女だった。

高さ40センチほどの黄色い植木鉢。
そこに根を下ろしたその植物は、部屋のどんな家具とも違う雰囲気で、
静かに、でも確かに、生活に彩りを添えてくれていた。

「2人で育てよう」
そう決めて、私たちは一週間ごとに交代で世話をすることにした。
水やりと、ときどきの肥料。
手間のかからない作業だった。

それでも、私は何度か忘れた。

言い訳が許されるなら、仕事が忙しかったとか言いたいけど、
それは彼女も同じだ。
だから、謝るしかなかった。

「約束も守れないなんて。最悪。」

「ほんとにごめん。次から気をつけるから。」

「その言葉も、もう聞き飽きた。
そう言ってまた忘れるんだ、いつも。」

「……。」

彼女の言葉に、返す言葉はなかった。

幸い、植物は枯れていなかった。
少し萎れてはいたけれど、今は元気を取り戻している。

――わかってる。
彼女が怒っている理由なんて、ちゃんと。

沈黙の中、彼女がぽつりとつぶやいた。

「もうそろそろさ、あたしたち限界な気がする。」

「……ごめん。」

「なんでこの子を育てようって思ったか、覚えてる?」

「……覚えてるよ。」

あの植物を育て始めたのは、
“2人で何かをする”という、ただそれだけの理由だった。

一緒に暮らし始めた頃は、まだ余裕もあった。
でも、仕事が少しずつ忙しくなり、
2人の時間は減っていった。

それが寂しくて、焦って、
せめて何かを共有していたかった。
時間が合わなくても、「同じものを見ている」という感覚がほしかった。

「覚えててこの感じなら、やっぱ限界だよ。」

「ごめん。本当に。」

「……来月までには部屋、解約しよ。」

「……うん。」

「もう謝らなくていい。お互い明日早いでしょ。寝よう。」

水やりを忘れたことは、ただのきっかけ。
予兆は、ずっと前からあった。
彼女は気づいて、何とかしようとしてくれていたのに――
壊したのは、私だった。