『思った以上に事態は深刻です』
と文字を打つが消去を長押しし、全ての文字を消した。
伊吹さんは、犯人を見つけるようにと言ったので
犯人を見つけるまでは何も言わない方がいい。
…一緒に頼まれた結城先輩には情報共有のためにメッセージ打っとこうと、と結城先輩の名前を探す。
そうだった。
…先輩とは連絡先交換してないから連絡できない。
こうしてみると、あの子がこの高校に来るまで
私と先輩は関わりを持たなかったんだ、と強く感じさせられた。
放課後。
体操服に着替えて部活へ急ぐ生徒や、どこで遊ぶか言い合っている生徒が入り乱れる1年生の靴箱の前で、
英単語帳を開きながら立つ。
嫌だと思いながらも、伊吹さんの頼みとなれば断れない自分は最早、周りから見れば滑稽以外の何ものでもない。
『伊吹さんに嫌われたくない』気持ちが強すぎて、どうにも出来ない。
そんな邪念を打ち消すかの様に英単語を覚えていく。
「レイさんっ!」
英単語を十数個覚えたぐらいの時、私の名前を呼ぶ声が聞こえ、
顔を上げると、靴に履き替えたあの子と結城先輩が立っていた。
「もしかして、待っててくれたんですか?」
彼女の顔がパッと明るくなるのが分かる。
「伊吹さんに頼まれたから...、」
あくまで自発的でないことは断りを入れておきたい。
「それでも嬉しいです。ありがとうございます」
にこっと笑う彼女の顔が眩しく見えた。


