「牢屋って……。これ、頑張っていい方に考えても、悪役令嬢とかの断罪ルートのエンディング部分じゃない?」

 金色に近いの縦巻ロールの髪は、明らかに悪役令嬢を思い浮かべさせる。

 名前すら思い出せない誰かに転生したようだが、せっかく前世の記憶を取り戻したのに、そのせいなのかこの子の記憶が飛んでしまっているし。

 その挙げ句、断罪ルートって。
 神様、ホントに私何をしましたかと言いたくなってしまうような状況だ。

 天井から吊られた鎖に手を繋がれている以上、顔を覆って泣くことすら出来ない。
 出てくるのはため息ばかりだ。

 また足音が近づいてくる。見回りの兵だろうか。
 彼に聞けば、罪状を教えてくれるかもしれない。

 でも下手に刺激して、危害を加えられても怖い。
 暗闇も音も、この空間も、全てが重くのしかかる恐怖でしかなかった。

「アーシェ、自分のしたことを思い出して、少しは罪を認める気になったかい?」
「殿下……」

 近づいてきたのは、見回りの兵ではなかった。そして私の口から、殿下と自然に紡がれる。

 どうやら、彼が断罪相手のようだ。金色の髪にブルーの瞳。
 王道を行くキャラからして、一番のメインキャラなのだろう。

 しかし、彼を目の前にしても何も思い出せない。アーシェさんはすでに何かをやらかした後ということね。
 ホント、最悪すぎる。
 
「私は何もしていません。何も、思い出せません」

 何もしてないかは分からないけど、何も思い出せないのは本当なのよ。