匠の想いを聞いた右京は、匠の頭を撫でた。
「……叔父さん、痛い」
「うん」
現場で、泣けない。だって、女優の恋人なんて。
それに、彼女は今、目の前で生きている。
いっぱいいっぱいの感情を押し殺しながら、唇を噛む。
(最初は、就活に失敗して)
身内である右京が経営している事務所に、恩情で就職させてもらった。
そこで、輝と出逢って。彼女が生きる活力だった。
「マネージャー!」
全く同じ姿。振る舞い。癖も何もかも、コピーされた。
歩き方、走り方、笑顔、ほんの少しの仕草さえ。
まるで、輝はまだ生きているのだと錯覚する姿に。
何事も無かったかのように、匠は笑った。
「どうしたの、ひかり」
「皆さん、一緒に来てくれるって!」
─どんどん、人を惹きつけてやまない。
伝説とされる番組に出た後、引退することを発表して、2か月。彼女は“ひかり”として、今もこの世界を生きている。
引退まで、残り2ヶ月。
世間の別れの季節、3月に合わせた引退。
誰もが惜しむ、彼女の才能。
─明らかに、水無瀬燈を追い込んでいく現実。
引退しても、メディアからは逃げられない。
彼女は頭が良いから、多分、考えているのだろうけど。
(……今の俺に出来るのは)
輝の満面の笑顔を思い出しながら、彼女を見守る。
(彼女を見守りながら、マネージャーとしての職務を全うすることだ)
生涯、自分は結婚することは無いだろう。
─彼女がこの胸の中で生き続けている限り、他の誰かを愛することは難しいから。


