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─それから、何ヶ月経っただろう。
大学2年生だった燈は、大学を辞めた。

そして、ずっと部屋に籠って。
輝の物に囲まれながら、泣き暮らした。

耐えられなかった。─耐えられなかった。

どうして、死んだのが私じゃないんだろうって。
そう思っては、喉が焼けるほどに苦しんだ。

食事も出来なくて、でも、食べなくちゃ、飲まなくちゃ、人は死んでしまうから。

『私が居なくなっても、こっちに来ないでね。ちゃんと生きて、幸せだよって、私のお墓に言いに来ること!』

─そんな遺書見つけちゃ、自分で死ぬことも出来ない。

最期まで可愛くて、狡い妹。

ほとんど死んだような生活を送っていたある日、妹と幼い頃に見ていた長寿番組の再放送があった。
その番組の題名を見た瞬間、思い出したのは。

『お姉ちゃん!やっと出られるの〜!』

と、嬉しそうに見せてくれた台本。
憧れていたことを知っていたから、嬉しくて。
ふたりで喜んで、祝杯を上げた。

世間では勿論、発表後の話。
だからこそ、輝が死んで1ヶ月弱。
SNS上では、輝の姿が見えないことを心配するファンで溢れ返っていて、世間で愛されている輝を見ると、彼らの中ではまだ、あの子は生きてるんだって実感もした。

あの子の話はタブーで、世間的に内緒にしていた。
本当なら公開するべきなんだろうけど、あまりにも唐突すぎて、燈が受け入れられなくて。

全てを分からなくなってしまいたいのに、それでも、ちゃんと時間感覚を失っていない自分に腹が立つ。

あの子はもういないのに、前に進み続ける時間。

(─なら、せめて最後に)

事務所は、燈や輝をすごく可愛がってくれていた大手の人で、だからこそ、情報操作はお手の物。

世間にはあの子が永遠に失われた時間を覚えていてほしい。でも、あの子という存在を忘れないで欲しい。
あの子の夢を、叶えてあげたい。

全部、全部、全部、全部、全部!!!!!……燈のエゴ。

─そうして、燈は輝の振りをすることを決めた。
自分自身のエゴを叶える為。その為に。


スマホを手に取って、社長に掛けた。


「─……輝の、代わりに」


そうして、未来のトップ女優は密かに産声を上げた。
たった一人の、唯一無二の、最愛の妹として。