これが愛じゃなければ




「─水無瀬さん」

待っていると、背後から優しい声で話しかけられた。
囁くような静かな声は、周囲へ配慮からだろう。

「……東雲さん」

少し悩んだ末に呼べば、彼は人差し指を口元に立てて。

「今日はどうか、ソウ、と」

「わかりました」

本名で活動する彼にとって、『東雲蒼依』という名前自体が商品だ。
元スポーツ選手の父親と、大女優の息子なだけあり、容姿はあまりにも人の目を引く。
今現在、同じくホテルのロビーにいる人達は横を通り過ぎる度、振り返る。
すらっとした長身、麗しい細面。
細長い指がサングラスに触れ、彼の黒髪が見える。
耳元ではシルバーアクセサリーが揺れ、輝いて。

「─行きましょうか」

そう言って手を差し出してくれる東雲さんは優しい人だなと思うが、帽子をかぶってサングラスをつけていてもなお、オーラは隠せず、多くの人に見られている。

「……」

その様子を見ながら、お墓に行くのは難しいかなと考えたり、自分も彼に合わせて演技をした方が良いのかな、とか。

「……ソウさん」

彼の手を取って、歩き出して暫く。
着いた先は駐車場で、どこへ行くのか困惑する。

「どうしましたか?水無瀬さん」

車の鍵をボタンで解除した彼は振り返り、優しく微笑んでいる。

「今日は何処へ?」

「そうですね。手始めに、親友に会いに行きたくて」

「親友、ですか?」

「はい。あ、勘違いしないでくださいね。貴女へ返事を急かすつもりではなくて、ただ、報告を」

「……」

「俺の用事ですみません。でもきっと、貴女もそうかもしれないと思ったので 」

そう言われて、車に乗り込むように言われた。

心臓がドキドキして、ぎゅってした。
だって、まるで、全てを見透かす目をするから。

(……輝にとって、この人はどんな存在だったのだろう)

そんなことを窓から見える景色を眺めながら、考える。
彼の横顔はとても綺麗で、流石、芸能人だなあ、とか。

車の中では特に話すことはなかった。
ただ、どんどん見知った景色に近付いていくのを見て、燈は泣きそうになっていた。