『君は?』

『私?私は、あかり!妹が熱出しちゃって、お使いの途中!お母さんがね、アイス買って食べていいよって』

そう言いながら、少女は自分のアイスを半分に分けた。
元々、二人でも食べられるよう、2本が1本になったような仕様のそれを、蒼依に差し出して。

『お兄ちゃんも、食べなよ』

と、眩しい笑顔。

『や、でも……』

『怪しくないよ』

なんて。どこで覚えたか分からない台詞を口にして、彼女はアイスを食べ始めた。足をパタパタさせ、聞こえる微かな蝉の声と、蒸し暑い空気は夏の終わりを運ぶ。

『……ありがとう』

溶ける前に!と、言われ、蒼依が大人しく食べると。

『いつもはね、これを妹と食べるの。でも、今は食べられないから。だから、お兄ちゃんが食べてくれて嬉しい』

『そうなの?』

『うん。だって、誰かと一緒に食べるのは嬉しい、でしょ?私は誰かと食べるのが好き!にこにこって、美味しいね〜って言えるから!』

─彼女はあの頃から、眩しかった。

『……でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんなのにねぇ』

幼子の言葉。何故か漏らした弱音に、彼女はそう言った。

『お兄ちゃん、格好良いよ。お兄ちゃんにとって大切なものをね、優先したらいいんだよ。私も妹や家族が大事!だから、誰に何を言われても、私は私の大切なものを全力で守るんだ〜!』

─蒼依の何かを外してくれた。
蒼依を縛り付けていた物を切り離して、蒼依に真正面から笑いかけてくれて。

『あっ、お兄ちゃん〜!』

その後も、時々会う度、彼女は笑顔で駆け寄ってくる。
妹も彼女にそっくりだったけど、彼女が“動”なら、妹は“静”─……そんな印象。

彼女のお陰で、ものの見方を変えられた。
自分の何かを壊すことが出来た。

特別の上で、もっとすごいことをしてやろう、と、思えるようになってきた。

だって、その特別は大切で、変えられるものじゃないから。当たり前と思うことはダメだけど、それを利用した上でできることは間違いなく、もっと沢山、沢山あるから。

だから、蒼依は芸名を変えて、転生した。
東雲蒼依として、堂々と表に出て、マネージャーや家族は驚いたけど、蒼依の決めた道を応援してくれた。

東雲蒼依という名前で、祖父の家も、父の有名な名前も、母の栄光も全部、この背に背負う覚悟で。