『どうせ、ママにでも泣きついて、この間のオーディションに受かったんだよ』

─なんて、そんな陰口を叩かれるようになるまでにかかる時間は短く、芸能界でも孤独を極めたが、別にだからといって、あの家族の元に産まれたこと、心配する両親の手を払い除け無かったことを後悔したことも無いし、両親の心配を余計なお世話とも思わない。

何より、演技に関しては何よりも厳しい母親がそんなことをするはずもないし、受かったオーディションの監督はそういう権力に振り回されることもなければ、芸能界に関しては全部、父親は母親に役目を託している。

だから、オーディションに受かったのは、蒼依の実力。
実際、蒼依が気に病むかもしれないから、と、監督は直接、蒼依に『本番も、あの不気味な演技頼むよ』と笑いながら、褒めてくれた。

でも、陰口を叩かれることに慣れているからといって、心に負荷がかからないわけでもなく、それなりの身の上だからこそ、1人になれる時間も殆ど存在しない。

元々、感情表現は演技以外で苦手だったけど、どんどん演技以外で自分の思いを出すことが苦手になっていき、家族がつけてくれた名前の意味からは遠ざかっていくような現実に、苦しんだ。

でも、それは口に出せない。出してはいけない。
だって、両親を否定することになる。
家族を傷つけたい訳じゃなくて、特別になりたいわけでも、特別扱いされたいわけでもなくて、ただ─……。

『─ねぇ、迷子?』

マネージャーにお願いして、公園のベンチで時間を潰していたある日のことだった。
自分は当時、まだ13歳。

そう言いながら覗き込んできた、芯の強そうな彼女は蒼依の顔を見ると、

『あ!良かった、泣いてなかった』

と笑い、蒼依の横に座った。