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「蒼依、何かあったのか」

家族での食事の時間。
久しぶりに家族全員の時間が合ったので、家族の食事会。
黙々と食べていると、祖父母と和気藹々としていた父親が心配そうに聞いてきた。

「?、何かおかしい?」

「何か暗いね。どうしたの、蒼依」

特に何かあったわけでもないのに、父親に続いて、母親にもそう言われて、蒼依は祖父を見た。

祖父は「ふむ……」とこちらを見た後、
「何か悩み事か?」
と、落ち着いた声で尋ねてきた。

そう言われて、思い当たるのはひとつだけ。

「…………おじいちゃん」

「どうした?」

「おじいちゃんとおばあちゃんって、恋愛結婚、だっけ」

「ああ。家のしがらみが鬱陶しかったが、自分の命と家出を賭けたら、許されたんだ」

「普通に考えたら、賭けるものおかしいよ。父さん」

「仕方ないだろう。そこまで言わないと、あの頑固な夫婦は認めてくれなかったんだから。俺はもう、彼女としか生きていくつもりなかったし」

ふん、と、ふんぞり返る祖父。
その横で顔を赤くする、祖母。

いつまで経っても仲良しなふたりを見て育った父親は、

「その気持ちはわかるよ。俺も紫帆(シホ)じゃないと、ダメだったから」

「だから、反対しなかっただろう」

真っ直ぐに、妻に対して愛を伝える青年に成長し、学生時代に出会ったというふたりは紆余曲折を経て、結婚。

色々なことがあったはずだが、今も仲良し夫婦。

「結婚の話題を出すということは、結婚したい相手が出来たの?」

いつも通りの妻自慢が始まったのを話半分で聞きながら、食事を口に運んでいると、察しの良い母親が優しい眼差しで聞いてきた。

「ええ、まあ……プロポーズ、結婚前提で交際を申し込みました」

「あら、御相手は聞いても良い?慎重な貴方がそんな、急に結婚前提なんて。一目惚れ?」

「……初恋、です。ずっと探していて、やっと見つけたから。気が流行りました」

「まぁ。珍しいのね」

「相手は……」

蒼依は名前を口にしようとして、躊躇った。
キラキラと底抜けに輝いていた彼女は、“変わった”。
その理由に気づいた自分は、彼女に悟られていないだろうか。