東雲蒼依と言えば、業界でレジェンドとされる大女優の息子である。同時に、父親は妻との大恋愛絡みで、メディアや世間を騒がせたことで有名な、元プロスポーツ選手。

御両親の口利きは間違いなく、メディアへの牽制になる上、彼の父方の祖父は、この土地での昔からの名家。

東雲家を敵に回したら、その出版社は終わる。
─間違いなく、彼らは東雲蒼依の前で下手出来ない。

知っている限り、御両親は仲が良く、ひとり息子の彼もまた溺愛されていて、何より、大女優の口から語られた情報を見る限り、家族仲はすこぶる良い。

だから、婚家としては問題ないだろう。
実際、大女優はとても良い人だし─……(演技でびっくりするほど、化ける人だけど)

「……もう少し早かったら、輝に伝えられたのに」

切なげにそう呟いた彼女の横顔は、姉の顔。
そっくりだけど、やっぱり輝は妹だったんだな、と。

「死んじゃってからだと、何にもならないね」

今にも泣き出してしまいそうな、苦しそうな顔。

「─……今から、どこかへ?」

「輝のお墓参り。最近、忙しくて行けてなかったから」

「そう。飲み会は」

「お断りしました。輝は、呑めない子だったから」

燈さんの言葉で、輝の声が甦る。

『私も、お姉ちゃんみたいにお酒呑めたら良かったのに〜!』

─……輝がいなくなって、数ヶ月。
未だ、その心は癒えず。
暗闇に光が差し込むことがないまま、燈さんは芸能界から去っていった。