夏。彼の野球の試合が平日に行われた。
 公欠でいなかった彼の姿を、私は授業中にインターネット配信でこっそり見た。

 国語の授業が「山月記を読んでスライドを作る」という自由作業だったのが幸運だった。
 教室の一番後ろの席で、パソコンの音量が出ないことを確認し、画面を開く。

 彼はピッチャーという大役を務めていた。
 いつもより険しい表情で、真剣にマウンドに立っていた。
 炎天下の中、六回まで無失点。だが、私が見始めたころから疲れが滲み始めた。
 やがてタイムリーを打たれ、相手にどんどん点が入る。
 彼は笑いながら両手を挙げ、「もうお手上げ」と言わんばかりの仕草でピッチャーを交代した。

 その笑顔を見て、涙が出そうになった。
 よく頑張ったね――心の中でつぶやいた。

 放課後、私は初めて彼にDMを送った。
 「今日の授業サボって試合見たよ!あんな暑い中よく頑張ってたね。来年も頑張ってね。応援してるよ」
 それが、私の精一杯だった。

 彼の返事は短かった。
 「ありがとう。また頑張る」
 たった一言なのに、心がじんわり温かくなった。