球技大会の日。
 クラスの男子がサッカー決勝に進出し、女子のみんなで応援することになった。私は、彼だけを見つめていた。
 野球部だからサッカーは苦手かと思っていたけれど、それは大きな誤解だった。
 彼は驚くほど速いドリブルで敵陣を抜き、力強くボールを蹴り出した。

 その瞬間、彼の片方の靴が青空に舞い上がった。
 そして、それは偶然にも私の目の前へ落ちてきた。

「危ない!」
「大丈夫?」
 周囲の声の中、私は彼の靴をしっかりキャッチした。
 フィールドを見れば、彼のボールは見事にゴールへ吸い込まれていた。

「やった!」
 クラス中が歓声に包まれる。
 片足でケンケンしながら笑う彼に近づき、靴をそっと差し出す。
「ありがとう」
 恥ずかしそうに微笑むその顔が、反則なくらい可愛かった。

 ――「すごかったね」「かっこよかったよ」
 言いたい言葉は喉の奥で渦を巻き、声にならなかった。


 秋空の下、体育祭。
 私は女子リレーの第二走者。最初は最下位スタートだった。
「絶対に一人抜く!」
 彼に見ていてほしくて、全力で走った。
 一人抜いて三位でバトンを渡す。だが結果は最下位。
 悔しさに唇を噛んだ。

 続く男子リレー。原くんは第二走。最下位でバトンを受け取ると、風のような速さで三人を抜き去った。
 長い脚で駆け抜ける姿は、眩しかった。
 その瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
 ――「結城くん、速くてかっこよかった」
 心の中でつぶやく。やっぱり言葉にはできなかった。