文化祭の準備で、教室は大騒ぎだった。
私は展示のまとめ役を任され、結城くんは壁画を描くチームで仲間たちと笑い合っていた。
彼の青緑色のクラスTシャツが、いつもより眩しく見えた。もちろん、私も同じTシャツを着ている。たったそれだけのことが、たまらなく嬉しかった。
「ここちょっと違うだろ!」
「いや、こうしたほうがいいって!」
女子には見せない笑顔と声。その無邪気さに、胸がまた高鳴る。
ある日、クラスの女子たちの会話が耳に入った。
「結城くん、小春ちゃんにデート誘われたらしいよ。でも断ったって」
「えー! 小春ちゃん、あんなに可愛いのに?」
「小春かわいそー」
私は笑顔を装いながら、心の中でそっと息をついた。
小春ちゃんが彼を好きだという噂は知っていた。彼女は身長が低くて上目遣いが得意な、“あざとい女子”という言葉がぴったりの子。男子と話すのにも慣れていて、いつも笑顔を絶やさない。
そんな彼女が、私の「推し」を狙っていると知ったとき、胸の奥がチクリと痛んだ。泣きたくなった。
……でも、彼は断った。
どうしてだろう。好きな人でもいるのかな。
勉強に集中しようとノートを開いたけれど、文字が霞んで見えた。
私たちは恋愛に消極的で、控えめなところが似ているのかもしれない。
4年間も同じクラスにいれば、隣の席になることも何度かあった。
けれど私はいつも緊張してしまい、まともに話すことができなかった。
私たちは2人とも静かだから、会話は弾まない。
MBTI診断によれば、私はINTJ型。恋愛の特徴に「意識すると逆に冷たくしてしまう」と書かれていた。
まさにその通りだと思う。
何度か言葉を交わしたことがあるが、大抵は小テストの丸付けの時だった。
彼の字はお世辞にも綺麗とは言えない。薄くて、へにゃへにゃしていて、可愛い。
字からも内気な性格が滲み出ているようだった。
本当はスペルミスをしていたけれど、こっそりおまけで丸をつけた。彼、気づいただろうか。
彼が丸をつけてくれた私の答案は、きっちり満点だった。
よかった、と胸の奥で安堵する。
彼が隣の席のときは、彼にいいところを見せたくて、いつもより必死に勉強していた。
“すごいな”と思ってくれただろうか。
そんな他愛のないやりとりのまま、席替えがやってくる。
でも、静かな時間を共有できるだけで、不思議と安心できた。
学年末テスト前、隣の席で自習をしていたとき。
教室は緊張感に包まれていた。
私は淡々とノートを埋めていたが、隣の彼の存在に胸が高鳴る。
結城くんも黙々と問題を解いていた。休み時間になると男友達と笑い合い、勉強中は真剣な顔になる。そのオンオフの切り替えが、また好きだった。
「白石さん、ここ、どうしてこうなるの?」
突然声をかけられ、思考が一瞬止まる。
「え、何?」と答えながら、彼の手元をのぞく。数学の問題だった。
英語なら自信があるけれど、数学はそこそこ。冷や汗をかきながら確認すると、なんとか答えられそうだった。
5秒ほど考えて、自分なりに説明する。
彼は真剣に聞いてくれて、やがてふっと笑った。
「なるほどね。さすがだわ。よくわかった。ありがとう」
その笑顔に、心臓が跳ねた。
私は微笑み返したが、そのあとはもう勉強どころではなかった。
私は展示のまとめ役を任され、結城くんは壁画を描くチームで仲間たちと笑い合っていた。
彼の青緑色のクラスTシャツが、いつもより眩しく見えた。もちろん、私も同じTシャツを着ている。たったそれだけのことが、たまらなく嬉しかった。
「ここちょっと違うだろ!」
「いや、こうしたほうがいいって!」
女子には見せない笑顔と声。その無邪気さに、胸がまた高鳴る。
ある日、クラスの女子たちの会話が耳に入った。
「結城くん、小春ちゃんにデート誘われたらしいよ。でも断ったって」
「えー! 小春ちゃん、あんなに可愛いのに?」
「小春かわいそー」
私は笑顔を装いながら、心の中でそっと息をついた。
小春ちゃんが彼を好きだという噂は知っていた。彼女は身長が低くて上目遣いが得意な、“あざとい女子”という言葉がぴったりの子。男子と話すのにも慣れていて、いつも笑顔を絶やさない。
そんな彼女が、私の「推し」を狙っていると知ったとき、胸の奥がチクリと痛んだ。泣きたくなった。
……でも、彼は断った。
どうしてだろう。好きな人でもいるのかな。
勉強に集中しようとノートを開いたけれど、文字が霞んで見えた。
私たちは恋愛に消極的で、控えめなところが似ているのかもしれない。
4年間も同じクラスにいれば、隣の席になることも何度かあった。
けれど私はいつも緊張してしまい、まともに話すことができなかった。
私たちは2人とも静かだから、会話は弾まない。
MBTI診断によれば、私はINTJ型。恋愛の特徴に「意識すると逆に冷たくしてしまう」と書かれていた。
まさにその通りだと思う。
何度か言葉を交わしたことがあるが、大抵は小テストの丸付けの時だった。
彼の字はお世辞にも綺麗とは言えない。薄くて、へにゃへにゃしていて、可愛い。
字からも内気な性格が滲み出ているようだった。
本当はスペルミスをしていたけれど、こっそりおまけで丸をつけた。彼、気づいただろうか。
彼が丸をつけてくれた私の答案は、きっちり満点だった。
よかった、と胸の奥で安堵する。
彼が隣の席のときは、彼にいいところを見せたくて、いつもより必死に勉強していた。
“すごいな”と思ってくれただろうか。
そんな他愛のないやりとりのまま、席替えがやってくる。
でも、静かな時間を共有できるだけで、不思議と安心できた。
学年末テスト前、隣の席で自習をしていたとき。
教室は緊張感に包まれていた。
私は淡々とノートを埋めていたが、隣の彼の存在に胸が高鳴る。
結城くんも黙々と問題を解いていた。休み時間になると男友達と笑い合い、勉強中は真剣な顔になる。そのオンオフの切り替えが、また好きだった。
「白石さん、ここ、どうしてこうなるの?」
突然声をかけられ、思考が一瞬止まる。
「え、何?」と答えながら、彼の手元をのぞく。数学の問題だった。
英語なら自信があるけれど、数学はそこそこ。冷や汗をかきながら確認すると、なんとか答えられそうだった。
5秒ほど考えて、自分なりに説明する。
彼は真剣に聞いてくれて、やがてふっと笑った。
「なるほどね。さすがだわ。よくわかった。ありがとう」
その笑顔に、心臓が跳ねた。
私は微笑み返したが、そのあとはもう勉強どころではなかった。
