『私、拓真が好きでこの学校に来たの。だから邪魔しないでちょうだい』


何台ものカメラが明美(あけみ)を映す。


私は深呼吸をして


『確かに明美さんのほうがずっと拓真を想っていたとしても、それでも私は…………私は、拓真が好きって気持ちは誰にも負けたくない!』


強く明美を見つめ返す。


『――っ……』


明美の顔がゆがみ、悔しそうに(ゆい)を見つめる。





「……はい、カットー!おっけー。バッチリだよ。一旦休憩はいるぞー」


監督の声に場の緊張感が一瞬でほぐれる。


「はぁ~…緊張しましたっ!文恵さん、やっぱり演技うますぎです」


私は椅子に腰かけて明美役の文恵(ふみえ)さんに話しかける。


「ふふっ。ありがと」


文恵さんが大人っぽく優しく微笑む。


私、野々上和羽(ののうえわう)は今、一本の映画の撮影中だ。


高校生の恋愛を描いた学園物語で、私はヒロインをやらせてもらってる。


初めての映画の撮影だし、周りは私よりうまい人ばかりだからやっぱり緊張しちゃう。






「あ、冬夜さん。お疲れ様です!」


椅子に座って差し入れのお菓子を食べながら台本を読んでいると、現場に一人の男性が入ってきた。


身長は170センチはゆうに超えてて、日本人離れしている統一のとれたパーツばかりの顔。


特に目をひくのは光を反射してキラキラ光るサラサラの銀髪。


まるで絵本のなかから出てきた本物の王子様みたいだ。


今をときめく大人気俳優、高梨冬夜(たかなしとうや)だ。