生まれたときから私には何の取り柄もなくて。


お父さんもお母さんもお姉ちゃんも優秀で。


私だけ他人みたい。


運動も、勉強も、友情も、恋愛も、どんなに頑張ってもうまくいかない。


劣等感しかない自分のことが大嫌いだった。






そんな時に、たまたまテレビでやってたドラマを見た。


親子の絆を描いたドラマで、私が見たのはほんの一瞬だけだったけど


その一瞬で物語の中に引き込まれた。


その時話題だった子役と母親が再会する感動のシーン。私は子役の男の子に目が釘付けになった。

『お母さん……やっと、やっと会えたっ、!』


感動、喜び、悲しみ、驚き、複雑な感情全部を表現した言葉では表せないような表情で


彼は涙を流しながら微笑んだのだ。


夕日が照らした涙で濡れた横顔はあまりにも美しすぎてこの世のものではないかのように感じた。





なにこれ……!すごい、すごい!私も………ここに、立ちたい、っ!


その瞬間から私の夢は女優になること。


そのために大嫌いな自分を好きになれるように努力してきた。


苦手な勉強も運動も将来の演技をするときのために頑張ったし、


あがり症を治したくて人とも積極的に話すようにした。


メイクだって、演技だって、見様見真似で始めて努力し続けた。


お父さんたちも5年かけてようやく説得できた。



どんなに反対されても、諦めなかった私だからこそ、今があるって信じてるから。


『ケセラセラ、ケセラセラ。どんなときも笑顔!』


私のあこがれだった子役の男の子が言っていた私にとって大切な言葉。


胸の中で唱えれば、不思議と勇気が湧いてくる。


鏡の前で口角を上げて笑ってみる。


よしっ、この映画撮影、がんばるぞっ!