ママは一昨年、病気で亡くなった。
 それ以来、パパは変わってしまった。

 乳母のマーサに言わせると、変わったのではなくストッパーだったママが亡くなって歯止めが利かなくなったらしい。

 よくわからないけど、パパはどこまでもお人よしサンなのだ。
 困っている人を見かけたら、何をしてでも助けたい。
 見捨てるなんてかわいそうだ。

「私はビンボーなんて、やなのになぁ」

 パパのしていることはきっとイイコトなんだけど。
 そのせいで使用人はマーサとマーサの旦那さんで執事のガロン、あとはパパの秘書であるオーウェンだけになっちゃったし。

 昔いたたくさんの使用人も騎士も誰もいない。

 それだけじゃなくて、おにいちゃんもココが嫌になって騎士になると言って士官学校へ行ったまま、帰らなくなっちゃった。

 残ったみんなは、忙しくて誰も私と遊んではくれない。
 ワガママなんて言ったらダメだって分かってるけど、でも寂しい。

 なんでこんなことになっちゃったんだろう。
 そう聞いても誰も答えてはくれなかった。

「もー。つまんなーーーーい!」

 そう口にすればするほど腹が立つ。
 私はもう一度水の中を勢いよくかき混ぜると、池の奥にキラキラ光る何かが見えた。

「わわわ、なにあれー! めっちゃキラキラしてるー。宝石かな」

 えー、手伸ばしたら届くかな。
 棒みたいなのどこにもないし。

 辺りに木がないことを確認した私は、そのまま池の奥に手を伸ばした。
 あと少し、もう少し。

 身体が水の中に落ちないように、それでも必死で手を伸ばす。

「んー」

 指先がそれに届くか届かないか。
 しかしその瞬間、体重を前にかけすぎたせいか、あっさりと体はバランスを崩し、池の中に吸い込まれていく。

 ドボンという大きな音を、自分でも聞いた気がした。