「……タ様……、アンリエッタお嬢様!」

 体をゆらされる感覚で目を覚ます。
 顔には夢で見た時のように、窓から薄日(うすび)が差していた。

 未だに私という人格が残っているということは、どうやら橋から身を投げたのに、死にきれなかったようだ。
 残念というか、運が良いというか。
 もしかしたら駆け寄って来る人が見えたから、助け出されたのかもしれないわね。

 でも、ここはどこかしら。
 見たコトがあるような、ないような。

 ぼんやりとする意識を浮上させながら、やや気だるい体を起こせば、見慣れた顔がそこにはあった。

「え? ミーア?」

 クリーム色の肩までの髪に、ブルーの大きな瞳。
 侍女の制服というには、やや薄汚れて使い古されたお仕着せを着た小柄な女性がそこにいた。

 もう会えることなどないと思っていた彼女の顔を見た瞬間、私は思わず抱きついていた。

 温かなミーアの体。
 姿形も、あの頃と何一つ変わっていない。
 死んだとしても体温ってあるのね、不思議。

 でもいいわ。ミーアに会えたのならば。

 さっきは死にきれなかったなんて思ったのに、ちゃんと橋から落ちて死ねたんじゃない。
 私ったら勘違いしちゃった。 

「ミーア! ミーア」
「ええ。ミーアですよ?」
「本当にミーアよね? 一緒に幼い頃からお父様の元で働いていた、うちの使用人の」

「だから、そうですってば。他に誰がいると言うんですか」
「そうね。ただ少しビックリしてしまって。久しぶりね、ミーア。天国でも、会えてうれしいわ。ずっと、あなたに会いたかったのよ」
「お、お嬢様? どうしちゃったんですか。もしかして寝ぼけちゃってるんです?」

 ミーアはその華奢(きゃしゃ)な体を私に抱きしめられながら、困惑していた。
 
 寝ぼける? 私が?

 そんなはずないじゃない。
 だってこうやって、ミーアを抱きしめることが出来ているんですもの。

「だって私たちはバラ病で……」
「へ? バラ病って何ですか?」

 きょとんとした顔で、ミーアは私を見ている。