なんの? なんのって。
愛すらない家に放り込まれ、夫となった人には初めから最愛の愛人がいる状態で、どうやって子どもができるというの。
ただでさえ、平民から金で貴族籍を買うために嫁いだのだと、夫の一族だけではなく貴族全体からも指をさされ、肩身の狭い思いをしながら生きてきたというのに。
「愛など子どものようなことを言ってどうする。そんなものがなくとも子はできるだろう」
「……」
「まったくお前がうまくやらなかったせいで、何もかも台無しだ」
「台無しって」
「与えられた仕事の一つも満足にできないヤツになど、どうして金をかけてやれるというんだ。先に使った金すら回収できていないお前になんぞ、これ以上使う金はない!」
「では、お父様は私に死ねとおっしゃるのですか?」
父の命令で結婚し、今までだって全て父の意思に従って生きてきたというのに。
確かに父が望む子どもという成果は得られなかった。
でもそれでも私は、ずっと父が望むように生きて父が望む仕事を全うしてきたじゃない。
それなのに今さら私を捨てるというの?
「もう好きにするがいい」
窓に大粒の雨が打ち付けられる音が聞こえてくる。
やや暗くなりかけた空は、外の様子もうかがえない。
何も見えない空は、どこか私の心の中を映し出しているように思えた。
「こんなに時だけ、そんな言葉を言うのですね」
出てきたのは涙ではなく、ただ乾いた笑いだけだった。
そっか。期待していた私がいけなかったのね。
知っていたのに。ずっと前から分かっていたことじゃない。
この人はこういう人なんだって。
期待するだけ無駄なんだって。
知っているのに、でも親だからと、どこかで期待してしまう自分がいた。
いつか普通にとはいかなくても、分かり合える日が来るんじゃないかって。
優しく頭をなでてくれたり、抱きしめてくれるんじゃないかって。
だけどもう、そんな日は永遠に来ない。
ホント、バカね。バカでどこまでも惨めだわ。
こんなことなら、ここに来るべきじゃなかった。
少なくとも来なければ、最後にこんな絶望を味わうこともなかったのだから。
「アンリエッタを部屋から連れ出せ。金を稼いでこないヤツなど、このダントレット商会には不要だ!」
父のひと際大きな声に、使用人が部屋の中にやってくる。
見覚えのあるその男性はややおどおどした様子で私を見ながらも、父の言葉に従い私を立ち上がらせた。
ここではそう、父の言葉が絶対だから。
逆らえば今度は自分が同じ目に合うのを誰もが知っている。
愛すらない家に放り込まれ、夫となった人には初めから最愛の愛人がいる状態で、どうやって子どもができるというの。
ただでさえ、平民から金で貴族籍を買うために嫁いだのだと、夫の一族だけではなく貴族全体からも指をさされ、肩身の狭い思いをしながら生きてきたというのに。
「愛など子どものようなことを言ってどうする。そんなものがなくとも子はできるだろう」
「……」
「まったくお前がうまくやらなかったせいで、何もかも台無しだ」
「台無しって」
「与えられた仕事の一つも満足にできないヤツになど、どうして金をかけてやれるというんだ。先に使った金すら回収できていないお前になんぞ、これ以上使う金はない!」
「では、お父様は私に死ねとおっしゃるのですか?」
父の命令で結婚し、今までだって全て父の意思に従って生きてきたというのに。
確かに父が望む子どもという成果は得られなかった。
でもそれでも私は、ずっと父が望むように生きて父が望む仕事を全うしてきたじゃない。
それなのに今さら私を捨てるというの?
「もう好きにするがいい」
窓に大粒の雨が打ち付けられる音が聞こえてくる。
やや暗くなりかけた空は、外の様子もうかがえない。
何も見えない空は、どこか私の心の中を映し出しているように思えた。
「こんなに時だけ、そんな言葉を言うのですね」
出てきたのは涙ではなく、ただ乾いた笑いだけだった。
そっか。期待していた私がいけなかったのね。
知っていたのに。ずっと前から分かっていたことじゃない。
この人はこういう人なんだって。
期待するだけ無駄なんだって。
知っているのに、でも親だからと、どこかで期待してしまう自分がいた。
いつか普通にとはいかなくても、分かり合える日が来るんじゃないかって。
優しく頭をなでてくれたり、抱きしめてくれるんじゃないかって。
だけどもう、そんな日は永遠に来ない。
ホント、バカね。バカでどこまでも惨めだわ。
こんなことなら、ここに来るべきじゃなかった。
少なくとも来なければ、最後にこんな絶望を味わうこともなかったのだから。
「アンリエッタを部屋から連れ出せ。金を稼いでこないヤツなど、このダントレット商会には不要だ!」
父のひと際大きな声に、使用人が部屋の中にやってくる。
見覚えのあるその男性はややおどおどした様子で私を見ながらも、父の言葉に従い私を立ち上がらせた。
ここではそう、父の言葉が絶対だから。
逆らえば今度は自分が同じ目に合うのを誰もが知っている。



