そもそも、そんな人だって知ってはいたけど……。
 私が今かかっている病は通称(つうしょう)『バラ病』

 初めは風邪に似た症状から始まり、高熱が出たあと全身にバラのような赤いあざが広がっていく。

 国境近くで確認されたこの病は、貧しい地方や貧民街でその感染を拡大させていった。

 貴族においてもその感染者はやや増加傾向にあったものの、隣国より取り寄せたとある特効薬がその進行を食い止めた。

 ただ輸入される薬は高価であり、貧しい者たちが感染を防ぐ手立ては今のところ見つかっていない。

 一度感染してしまえば、その薬以外に助かるすべはなく、全身にあざが広がった後刺すような痛みで苦しみながら死んでいくのだ。

「分かっているのか? お前をあの男爵家に送り込むために、いくら使ったと思っている」
「それは……」
「せっかく平民だったお前を男爵家に嫁がせたというのに。子も産まない上に、妻の座を愛人になんぞ盗られよって」

「ですがお父様も知っていたはずではないですか。この結婚に愛などないことを!」
「それがどうしたというんだ」
「どうしたって……」
「お前に与えた役割は、子を()してあの家を乗っ取ることだぞ。愛などなんの関係があると言うんだ!」