「どうでしょうか……。私にはプライドが全くないようには思えませんが、プライドだけでは人は生きていけませんからね」
「まぁ、そうでしょうね。そこだけは同意だわ。ともかく貴女たち侍女も奥様も、くれぐれもこの離れには近づかぬように言っておいてちょうだい」

「分かりました。ですが、こちらのお掃除などはしなくてもよろしいのですか?」
「離れには、離れ専用の侍女や使用人たちがいるから人手は足りているわ。だから大丈夫よ」
「ああ、そうなのですね。分かりました。奥様にもそう申し伝えておきます。ありがとうございました」

 私はしっかりと頭を下げる。
 しかし彼女はそれを見ることもなくため息交じりに、自分の持ち場へと戻って行った。

「ふぅ。ホント、バレなくて良かったわ。ダミアン様はどうしたって気づかないだろうけど、マトモな使用人なら一度顔を合わせたら気づかれてしまうものね」

 それに彼女の話のおかげで、今までずっと疑問だったことの答えを得ることができた。

 本邸にはまったく人を配置していないのに、あっちには足りるだけの人間がいる。
 おそらく人件費はそっちに流れているようね。

 ただ離れはそんなには大きくはない。
 そう考えると、膨大なお金がかかるほどではないのよね。

「そうなると、他はどこにお金を使っているのかしら」

 まぁ、あの愛人に使っているのは間違いなさそうだけど。
 ここは仮にも男爵家なのよねぇ。

 たった一人の愛人の散財(さんざい)くらいで、ここまで(かたむ)くかしら。