でも今の話で何も疑問に思わなかったってことは、奥様が本邸にいることは知っているってことよね。

 知っていて、この人は夫と愛人の世話をしている。
 でもそれって、つまりは義母も知っているってことじゃないかしら。

 いくらあの人が外には出ないような人だからって、同じ敷地内に愛人がいたらさすがに気づくわよね。

 なんともまぁ、恥ずかしくないのかしら。

 いくら私が初めから貴族ではないとはいえ、この屋敷中の人間たちが平民を……いえ、私を見下しているのね。

 腹を立てるだけ無駄なのだろうけど、本当に人として腐ってるわ。
 私は目の前にいる侍女に気付かれないように、そっとため息を吐いた。

「掃除用具の倉庫は、この中央の庭を抜けた先にあるわ。木で出来た納屋があるから、すぐ分かるはずよ」

 侍女はめんどくさそうにしながらも、指で道を示してくれる。
 掃除道具なんて必要はないけど、一応これで逃げ出せるわね。

 こっちの使用人たちと顔合わせしていなくて助かったわ。
 じゃなきゃ、私が奥様だってバレていただろうし。

「あ、ありがとうございます、助かりました。では行ってきます」
「ねぇ……奥様って、プライドがないのかしらね」

 ぼそりと漏らしたその侍女の言葉に、私は足を振り返る。

 どうしてこの場面でプライドの話に繋がるのか、私には分からない。
 分からないけど、考えるよりも先に言葉が口をついていた。