こんなことして、永遠にバレないとでも思っていたのかしら。
 そうは言っても、三年間何も言えなかったのは事実だけど。

「僕だってお金のことさえなければ、あんな女なんかと結婚などしなかったさ。僕が愛しているのはアンヌだけ。知っているだろう?」
「分かっているけど、だったら! アタシのことを本当に愛して下さっているのなら、こんな離れで我慢している可哀想なアタシにドレスを買って下さいな」

 私は気づかれぬように、そっと中を覗き込む。
 真っ赤なドレスを着た愛人さんは、長いバイオレットピンクのストレートの髪と同色の瞳。
 
 気は強そうだけど、それ以上に綺麗ね。

 ソファーの上で夫にしなだれかかるその姿を、ほん少しだけ見ることが出来た。

「もちろん分かってるから、いい子だからもう少し待っててくれアンヌ……」
「ダミアン、アタシがどれだけ惨めか分かっているの? あの女のせいで、屋敷の中も自由に動き回れないのに……。夜会だって、あの女と行くのでしょう?」
「いや。彼女は平民だからね。そんな女を貴族の夜会になど連れて行かないさ」

 そうね。一度だってあなたが私を外に連れ出してくれたことはない。

 それこそ、夫はずっと私を使用人扱いしてきただけだったもの。
 優しいのはその口ぶりだけ。

 しかも優しい自分を演じているだけどいう、薄っぺらい男だったけどね。

「ちゃんと夜会には、いつも通り君を連れて行くよ」
「本当にぃ? でも大丈夫なの?」

「ああ、案は考えてあるから大丈夫だよ。誰にも何も言わせないさ。僕の愛しているのは君だけだからね、アンヌ」
「うれしい! アタシも愛しているわ、ダミアン」

 貴族であっても、この国では重婚は認められていない。
 だけど前回も金のために受け入れるしかなかった、可哀そうな男とその恋人を演じてたっけ。
 
 金がないって言っている時点で、空しくないのかしら。
 一応仮にも貴族なのに。
 
 もっとも、この男爵家が困窮しているのは、みんなが知っていることだから関係ないのかな。

 なんだかあまりの茶番を目の当たりにしていたら、不快な胸の奥から吐き気がしてくる。

 何だが見ていただけで、ドッと疲れたわ。
 少し部屋に戻って休みましょう。

 私はクラクラする頭を抱え、その場をそっと離れる。

「あなたこんなところで何をしているの?」

 そっと立ち去ろうとする私を、見たこともない一人の侍女が引き留めた。