「もちろんです、アンリエッタ様」
「ありがとう」

 自室での侍女たちのミーティングっていうのも、中々の状況ではあるけど。幸いこの屋敷は人がほぼいないから、聞き耳を立てられる心配もない。

 義母にいたっては、足が痛いからと二階に上がって来ることもないし。
 ある意味やりたい放題なのよね。

 彼女たちには、ミーア同様一通りの説明はしてある。

 私たちの目的、ここに呼ばれたわけ。そしてこの先のこと。
 恐ろしいほど薄給に近い父などより、みんな私についた方が良いのも分かってる。

 初めは勝算がなさそうではあったから、困惑する子もいたみたいだけど、現状商会の名義が私になっているということを聞くと、みんな安心したようだった。

 未だに執務室で大きな顔をして、経営をしている父だけど、経営権はすでにないのよね。
 
 しかも名義を私に移す際にも、なんの小細工もしなかった。
 だって私が父を裏切るなんて絶対ないって自信があったからだと思う。

 まさか頭の良い父だって、私が父に裏切られて死に戻ったなんて夢にも思わないでしょうね。

「とりあえず、当面は二人が屋敷内の掃除を。一人は他の使用人との接触(せっしょく)を試みて。ミーアは屋敷内の部屋の把握(はあく)をお願い。見取り図が欲しいわ」
「はい」
「私はその間に奥の離れの様子と、この男爵家の経理など調べられるとこを調べます」

 ここまでお金のない原因。
 それはきっと、この家のネックになっているはず。

 そういう弱点は、あとからいくらでも活用出来るから情報は多ければ多い方がいいのよね。

「大丈夫ですか? アンリエッタ様は顔がバレていますし、あたしか誰かが偵察役をやった方が無難だと思うんですが」
「まぁ、フツーなら私がやるのはアウトでしょうけど。そんな奥まで入り込む気もないから大丈夫よ」

「ですが……」
「それに夫となったあの人は、私には興味ないし。この侍女の格好さえしていれば、私だって気づくこともないわ」

 自分で言っておいて、それはそれでどうなのかとは思う。
 ただ髪をしばって、侍女の格好をしているだけで見分けもつかない妻って何なのだろう。

 普通ではありえない話よね。
 でも気づかれない自信だけはあった。