「何かするんですか?」
「父の元を離れた今がチャンスだと思ってね。今まで奪われてきた人生全部、まるっと取り戻すそうと思って。父の商会もこの家も、全部手に入れて……反撃しようと思って」
「……」

 私の言葉に、珍しくミーアが考え込むように視線を外した。
 いきなりこんなこと言われたら、やっぱり困惑するわよね。

 今まで私はずっと従順に父の命令に従ってきたわけだし。
 ミーアだってそう。

 生きていくために、自分の居場所を確保するには、そうするよりほかなかったのだもの。

 だからこそ、私たちにとってみれば父という存在は何よりも大きい。
 逆らえないように刷り込まれているから。

 いくら仲のいいミーアといえど、さすがに計画を打ち明けるには早かったかしら。
 もう少し慎重にしてからのが、良かったかな。

 考え込むミーアを見ていると、そんな不安が胸を襲う。

「ミーア?」

 私は沈黙に耐えられず、声を上げる。

「結構大がかりな計画になりそうですね」
「ええ。ごめん、嫌だったかしら」

 不安そうに私が顔をのぞき込むと、ミーアはきょとんとした顔をする。
 そしてまた大きく笑って見せてくれた。

「まさか。むしろ、どうやってやってやろうか考えてたんですよ」
「ホント? さすがミーアね」
「でもあたしだけでは絶対に人が足りませんね。商会側もそうですけど、この家のことも」

「それはそうね。どちら側にも味方を増やさないと。しかも慎重にやらなきゃ、父に気付かれでもしたら大変だわ」
「人選を間違えたら大惨事ですね」
「そうなのよ。だからこそ、ミーアにも協力してほしくて」
「もちろんですよ、お嬢様。しっかりがっつり、やっつけちゃいましょう!」

 私がにたりと微笑むと、ミーアも満更ではないようだった。
 父は基本的に、自分以外をコマとしか見ていない。

 金さえ払えばなんでも動くものだと思い、使用人たちからも恨みをかなり買っている。
 彼女もそのうちの一人だ。

「今まで奪われてきたものは全部回収してしまわないとね」
「まずはどうします?」

「そうね。商会が私名義になったことだし、そっちにも数名送ってちょうだい。あとはこの屋敷のことを把握したいから、さらに侍女の追加が欲しいわ」

 まずはなんとしても夫の弱みを握らないと。

 前回は言われるままだったけど、せっかく結婚したんですし、妻には家のことを知る権利があるのですよ。

「これは忙しくなりそうですね」
「ええ。期限は籍を入れた時からぴったり三年後。それまでに全てを片づけるわ」

 その前に流行るバラ病もなんとかしなきゃいけないし。
 とにかくお金も必要になる。

 だけど未来を知っているし、薬のありかも分かっている。
 もう何も怖くはないわ。

 窓の外には、私たちの計画の成功を約束するかのように大きな星が輝いていた。