「そうなのよね……。食事もほぼ自分たちで用意しなきゃいけないし」
「あの固いパン! 今時の貴族様って、ふかふかなパンを食べれるのかと思ってましたよ」

 ミーアは食堂にあったパンのことをしきりに気にしていた。
 確かに実家でも、平民が普通に食べる固く黒いパンを食べていたけど。

 貴族の方たちが食べるパンって、一応は固くてももっと小麦色したものだとばかり思っていた。

 しかし困窮具合が激しいせいか、ここでの食事は実家でのものとあまり変わりがない。
 むしろそこだけは実家の方が少しマシだったかもしれない。
 
 若く働き盛りが多い使用人たちへの食事は、倒れられても困るという観点からかなりなボリュームがあった。
 
 もっとも給与から天引きされているから、それぐらいは食べさせてもらわなきゃ話にもならないのだけど。

 でもここは違う。
 固く黒いパンに、野菜くずのような味気ないスープ。
 
 メインとなるものにも肉はほぼ入っていない。
 動かない人にはそれでもいいのかもしれないけど、動く私たちからしたら全然足りないのだ。

 前もよく三年間も耐えたものよね。忍耐力っていうのかな。
 虐げられることに慣れすぎちゃっていたみたい。

 我慢したって一つもいいことなんてないのに。
 でもそれが当たり前すぎて、普通が分からなかったのよね。

「で、そろそろあたしを呼んだ理由を教えてもらえませんか? まさか掃除を~ってだけじゃないんですよね」
「ふふふ、そうね。掃除は確かに手伝ってもらいたかったけど。もちろん別件よ」