「思ったより呼ばれるの早かったですね、アンリエッタお嬢様」

 実家に急いで申請(しんせい)をし、ミーアの給与は私から支払うという形で、なんとかここへ来させる許可が下りたその昼過ぎ、小さな荷物を抱えたミーアが男爵家にやって来た。

 父に細工してもらって、男爵家へ払う持参金の一部をこちらに回してもらっておいて正解だったわ。
 いくら私に貯金があるからって、彼女たちの給与を払っていたらすぐ底をついてしまうわ。

 涼やかなクリーム色の髪を一つにまとめ、私を見るなりニカッと笑うミーア。
 その笑顔は大輪の夏の花が咲いたような印象を受ける。

 この笑顔を見た瞬間、少しホッとしている自分がいた。
 そして無意識に、盛大なため息がこぼれ落ちていく。

「ああミーア、本当に本当に待ってたわ」

 ミーアを見た瞬間、今まで気を張っていた肩の力がやっと抜けてくる。
 
「あーあ。そのご様子だと、かなりやられちゃってますね。ちゃんとお嬢様との約束でしたから、このミーア、大至急参上いたしました」
「ありがとう、ミーア。でも今は、もう私はお嬢様ではないのよ?」
「あー、そうですね。すっかり忘れてました。今は奥様でしたね」

 いつかのように、私たちは屋敷のエントランスで顔を見合わせながら笑い合う。

 前回はずっとこの味方のない屋敷の中で一人だったのだけど。
 ミーアがいるというだけで、こんなにもホッとできるものなのね。

 あの時はこんな選択肢考えられなかったけど、やっぱり呼んで正解だったわ。

「そうそう一応、ね。詳しい話は夜にでも、私の部屋でしましょう。お父様の様子も聞きたいし。それよりもこんなところで油を売ってたら、また叱られるわ」

「あー、そういう系ですか」
「そう。そういう系なのよ」

 私の一言で状況を理解したようにミーアが苦笑いをした。