他も計画通りに進めていきたいし、やることはたくさんある。
 だったら今は、多生のコトは目をつぶるしかない。

「でしたら、私から父にお願いして実家の侍女を連れて来てはダメでしょうか?」
「商家の侍女だなんて。そんなのをこの家に入れるのはダメよ。うちは由緒正しき男爵家なのよ!」

 はいはい。
 由緒正しいだけの、とーーっても汚いお屋敷だけどね。

 ほこり臭いし汚いしボロボロだし、私がいろいろ限界なのよ。
 由緒正しくったって、こうも汚いと私が無理なの。

 あなたたちはこのオンボロ屋敷にずっといたから気にならないかもしれないけど、私は無理。
 本当に無理。絶対に無理。

 むしろ潰して一から建て直したいと思えるほど、無理なのよ。

 あー、ここを乗っ取ったあかつきには、それもいいわね。
 こんな汚い屋敷、もうどうしようもないもの。修繕するにしても限界超えてるわ。

「だが君の父親に頼むと、いろいろとうるさいだろ」
「そこは私がなんとかいたします」
「だが……」

「侍女のお給料は、私の貯金から充てますので男爵家にはご迷惑をおかけいたしません」
「そうか。まぁ、君がそこまで言うのならば仕方ないな」
「甘やかすつもりなの、ダミアン」

 キっとした目で義母がまた私を睨みつける。

 ホント、この人はそれしか言わないわね。
 甘やかしじゃないって、どう説明したら理解してくれるのかしら。 

「いえ母上。屋敷が綺麗なのも、母上の健康のためですよ」

 さっきはいらないって言ったくせに。よく言うわ。

「だったら、嫁であるアンリエッタにやらせればいいじゃないの」
「間に合わないのなら仕方ないですよ。アンリエッタ自ら、自分が無能で、一人では認めたのです。そこまで言うのだから、優しい心で許してあげないと可哀想ですよ母上」
「アリガトウゴザイマス」

 ダミアンは茶色のくせ髪をかき揚げながら、さも自分が優しく寛大(かんだい)な夫であるかを義母にこんこんと語りかけていた。

 えっと、どこが優しく寛大なんですか? 頭おかしいのではないですか?
 私がお金払うって言ったから、許可しただけでしょう。

 それにまず人をこの屋敷に入れたくないなら、自分たちだって動けばいいじゃない。

 働かない者は~なんでしょう?
 だいたい、無能ってあなたに言われたくないわよ。何にもしないくせに。

 本当に腹が立つわ。
 前回、よく我慢したわよね。こんな人たちのために。

 思わず素が出そうになるところを必死に、私はやや冷めた野菜くずしか入っていないスープと共に喉の奥へと流し込んだ。