「すみません」
「謝って済む問題だと思っているの?!」
別に私だって好きで謝っているわけではない。
でも一応は謝らないと、あなたの気が済まないから謝っているだけよ。
まったく勝手な人たちだわ。
悪徳商法にハメられる人たちって、こんな感じなのかしら。
自分たちが決めたことの文句を私に言われても、どうしろというのよ。
いっそ断ってくれていたら、私も結婚などせずに済んだのに。
「まぁまぁ母上。そんなに興奮なさると、お体にさわりますよ?」
そうね。血圧、高いものね。
倒れでもしたら治療費が大変よ。
なんせ、この家は恐ろしいほど貧乏なんだから。
「これが興奮せずになどいられますか! うちは由緒ある男爵家。その昔は王家の側近をつとめた名家なのですよ!! それをこんな風にただの商人風情に、見下されて馬鹿にされるだなんてありえないわ」
過去の栄光をいくら並べたとしても、数日前まで没落寸前だったことには変わらないのに。
違うわね。
過去の栄光を捨てきれないからこそ、父のような悪い人間に捕まるのよね。
馬鹿々々しい。
父の考えは基本的に大嫌いだけど、プライドや見栄だけでは食べてなど行けないって考えだけは同意している。
「だけどそれはこの娘のせいではないでしょう? 母上」
「親が親なら子も子よ、きっと」
きっとって。
一括りにするのだけは、やめてほしいわ。
「まぁそうかもしれないけど……。えっと、確かアンリエッタだっけ? 君には初めに言っておかなければいけないことがある」
「……はい、ダミアン様」
「うちは君が嫁いでくれたとはいえ、中々に今は大変な状況なんだ。いろいろ元の家とは違い、君にも働いてもらうことになるよ」
「……わかりました」
安定に私の名前すら憶えていないのね、この人は。
一応前回そんな感じだったから、わざわざ式でこちらから挨拶だけはしておいたのに。
どうでもいいって感じが、ヒシヒシと伝わってくる。
夫であるダミアンにとって、私が眼中にないのは知っていたけど、ここまでくると清々しいわね。
でもその方がこちらもいろいろとやりやすいから、よかったわ。
掃除と称して、この男爵家のことを隈なく調べなきゃいけないもの。
前回はこの人たちの言いなりになって、一人でやられっぱなしだったけど、今回は違うわ。
私がやりたいことは一つ。
ここを乗っ取ることだから。



