「まったく最低の結婚式だったわ!! どうなっているの、あれは!!」

 男爵家の屋敷に入るなりすぐに、姑は自分が被っていた帽子を床に叩きつけた。
 すると床で、白い綿ほこりがふわりと舞う。

 安定に汚い家ね。
 
 いくら使用人がいないとはいえ、掃除が行き届いていないのも限度がある。
 よくこれで病気になどならないものだわ。

 こっそり心の中で悪態をついたものの、ある意味この状況はどうしようもないことは知っていた。
 
 ボロく荒れたこの屋敷には、そんな元女主人を気遣う人も金もない。
 父が買ったこの男爵家は、本当にお金に困っていた。

 そう。
 あんな扱いを受けても、父に直接なんの抗議もできないくらいに。

 ただ自分たちの名誉を売った相手が、本当に最低最悪な人間だったというのは、きっと誤算だったでしょうね。

 そこだけは、ほんの少しだけ同情をしないこともない。

「まったく、あなたの父親は貴族を何だと思っているの?」

 義母は夫と同じ緑がかった茶色い瞳を吊り上げ、私にくってかかる。
 深く刻まれた目じりのシワが、余計に目立つ。

 あーあ。

 ただでさえドレスとかピンクで無理な若作りしているのに、そんな風に怒ったら余計にシワが増えちゃいますよ、お義母様。

 だいたい答えなんて『ただの商売のための道具』一つしかないじゃない。
 もっとも、それをストレートに伝えるのは得策(とくさく)ではないけど。

 それに、一番に文句を言っていいのは私のはずでしょう。

 なんでこの人たちは平民を金で嫁がされることの意味を、きちんと考えなかったのかしら。