そしておごそかといえば聞こえはいいが、結婚式の飾りつけなど無駄な物はほぼなく、ただドレスが引き立てられるようになっている。

 自分が作らせた新しいドレスをただ見せるための、最高の発表会なのだ。
 結婚式すら商売の道具にして、男爵家に払ったお金を回収しようとするあたりは、さすがとしか言いようがない。

 ただあまりの式の簡素さに、相手方は文句こそ口には出さないものの、顔を真っ赤にさせていた。

 なにせ私のドレスも相手のタキシードもこの会場も、みんな父が用意したものだから文句も言えないわよね。

 だけど相手方の参列者まで制限してるって、本当に酷いものだわ。
 だいたいドレスが主役の結婚式なんて、自分の娘にすることではないでしょう。

 向こう側の人たちではなくても、腹立たしい気持ちは分かる。
 むしろ、私が一番怒っていいはずなのよね。

 だけど前回はただ恥ずかしくて、悲しいだけだった。
 式の間もずっとうつむいていて、夫となる人の顔すらまともに見られなかったのよね。

 だけど逆に今は怒れるのかと言えば、それもなんだか違う気がする。
 そうね。なんていうか、どうでもいいって感じなのよ。
 むしろ私にとってはこんな式よりも、この先の方がずっと重要になるから。

 私のために用意されていないものなんて、早く終わればいいのよ。
 ただいいように、父に扱われるのはバカみたいだから。
 
「いやぁ、いい式ですなぁ」
「なかなか、生で結婚式を見れることもないですからなぁ」
「ホントですよ。ドレスは動きによって見え方も変わりますし。さすがはダントレット商会。やることが一味違いますな~」

「なになに。みんなよく見て行ってくれ」

 本当に何なのかしらね。
 父も父なら、他の人も何にも思わないのかしら。
 みんな商人って、どこか頭がおかしいんだわ、きっと。

 わらわらと集まる商人たちの視線や賞賛(しょうさん)の声に、私は何よりも深いため息をついた。