「でも気にならないんですか? 自分がどんな人と結婚させられるかって」
「一応、内容だけは聞いてるわよ。あの人が貧乏な男爵家を、お金で買ったみたい」
「うわぁ」

 お金で買ったと言う時点で、この後の展開が分かり切ったようなものよね。
 うまく行くわけがないじゃない。
 どこにこれで幸せになれる要素があるっていうのよ。

「だけどそうね。私も何から何まで全部、父の言いなりになるつもりはないの」
「アンリエッタお嬢様……。何か、策でもあるんですか?」
「ええ、ミーア。だからそのために、あなたも協力してくれるかしら」
「あたしで出来ることでしたら、なんでも協力しますよ。なにせ、賄賂はもうもらっちゃいましたからね」

 先ほどまでの泣きそうな顔から笑顔を作ったミーアは、クッキーを一つ取ると私に振って見せた。

 こんな些細な賄賂ですら、よろこんでくれるなんて。
 でもきっと、この借りは何十倍にもして返すからね。
 それまでもう少し待っててね、ミーア。

「ありがとう、ミーア。婚家に行ったあと、計画を始める時には必ずあなたを指名するから、その時はよろしくね」
「もちろんです。それまであたしはこっちで、お嬢様に役立ちそうなことをいろいろ頑張っておきますね」
「うん。ありがとう」

 おどけるミーアを見て、私も笑みがこぼれる。
 なんだかやっと、生き返って良かったとほんの少し思える自分がいた。