子どもにだって容赦のない父は、平気で重労働をさせる。
 重たい荷物運びから、衛生環境(えいせいかんきょう)の悪い場所での掃除。
 それこそ、ありとあらゆることをさせられてきた。

 およそ、父の娘という親子関係の記憶はほぼない。
 むしろ娘である分、何をしてもいいとさえ父は思っているようだった。

「子どもはモノじゃないのにね。あの人の中ではそうではないみたい。母が生きていたら、もう少し違ったのかもしれないけど……」

 そうは言ったものの、おそらく母が生きていても今の状況とさほど違いはなかったはず。
 結局、みんな父のいいようにさせられるだけ。
 
 逆らえる人なんていないのよ。ううん、いなかったのよね。
 今までは。 

「その……結婚されるお相手は、お嬢様が知っている方なんです?」
「いいえ。顔すら見たこともないわ」
「はぁ⁉ いくらなんでもそれは」
「でもほら、顔を知っていたからってどうってこともないでしょう? どうせ拒否できないわけだし」
「それはそうですけど」

 どこぞの後妻(ごさい)に入れられるよりかはマシなのかしら。
 一応歳は近かったし、顔だって少しも好みではないけど悪くはなかったわね。
 しかも身分はあっちの方がずっと上なわけだし。

 そう考えたら、父にしては娘のためにマシな人を見つけてきた方だったのかしら。
 それ以外は難ありすぎて、結局一回目はあんな風に死んでしまったけど。